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バンコクダークナイト

フィクション小説です。アフィリエイターとタイ・マフィアの戦いを描く。 ※リアルなタイを表現する上で、性的な内容も扱います。R18指定。

パヤシラ・ダークネス 第5話

「よう、久しぶりだな」

肩を叩いたのはカズヤだった。

「早かったな」

「ああ、夜中だったからスムーズに来れたよ」

「すまない、こんな時間に呼び出してしまって」

「構わんよ、ビジネスだ。何があったんだ?」

カズヤにこれまでの経緯を説明する。少し柄の悪い友人の到着に彼女も警戒しているようだ。こちらを時折睨み付けてくる。

「なるほど、その金を取ったのがあの女か。確かに美人だな」

「それと、恐らくあの女はクスリをやってる。肩の近くの上腕に注射器を刺した小さな傷跡があったから間違いない」

「注射器?タイ人なら炙って吸引するのが普通だが。まあその辺は何でいい。結局タイシはどうしたいんだ?」

「クスリの事は言わなくても良い。6000バーツを何のサービスも受けてないコイツに渡すのが気に食わない。6000バーツが戻ってくればそれで良いと思ってる。」

「なるほど、簡単な仕事だな」

しばらく、カズヤに状況を説明していると警察が2、3人やって来た。警察を見るなり女はタイ語で何か話しかけている。速くて聞き取れない。カズヤは静かに耳を済ませている。

「向こうはカズヤがタイ語を理解出来るのを知らないだろう。何を言ってるか教えてくれ、それによって対応を考える。」

「わかった」

「どうせ、私はお金を取ってないとか嘘をついているんだろ。売女め」

「静かにしてくれ、これはややこしい事になりそうだぞ」

「どうした?」

カズヤの顔がみるみる雲っていく。

「あの女にはボーイフレンドがいて、そいつの知り合いが警察らしい。しかも、それなりに偉い役職、要は幹部のようだ。」

「何だって」

「金を取ったどうこうの話は全くしてない。女はその彼氏の知り合いの警官に連絡しようとしているみたいだ。警察も動揺している。」

女と警察の会話が途切れると、ツーリストポリスが警官に事の経緯を説明している。少々困った顔をしながら、警察とツーリストポリスがこちらに近づいて来る。

「彼女はやはり金を取っていないと言ってる」

ツーリストポリスが話しかけてきた。警官はただこちらを見ているだけだ。

「そんなはずはない。嘘だと思うなら彼女の持っている紙幣から指紋を採ればいい。俺の指紋が出るはずだ。」

ツーリストポリスがタイ語に翻訳して警官に伝える。

「君にそんな権限はないし、仮に指紋が残っていても証拠にはならないだろう」

「そうしたら、検査料として1万バーツ払う。それならどうだ?」

間接的な賄賂の提案だ。ここまで来たら金なんてどうでもいい。こちらが正しい事を証明したい。警察も少し心が揺れている。

1万バーツは日本円で約3万円。こっちは数万円なんて金はちっとも惜しくない。6000バーツを取り戻すためだけに、カズヤへのバイト代を含め日本円で6万円近い出費である。こうなったらもはや意地だ。

警官は彼女の方へ近づき何か話している。カズヤは近づいて、警官の話す会話をこっそり聞き取っているようだ。

「あの女は取っていないの一点張りだ」

「こうなったら、覚醒剤の事を言おう。これならタイ警察も動くはずだ」

「落ち着けタイシ。この状態で警官に覚醒剤の事を伝えてもお前が逆にマークされるだけだぞ。深く関わらない方が賢明だ。」

「6000バーツを諦めろというのか?」

「そうだ。お前にとっては大した金額ではないだろ?たかだか6000バーツのために警察や女のボーイフレンドから恨みを買うのは利口とは言えない」

このままあの女に6000バーツを取られるのは悔しいが、冷静に考えればカズヤの言う通りである。警察をコントロール出来る相手にタイで真っ向勝負を挑もうとする方が馬鹿だ。

「わかった」

カズヤにそう答えると、ツーリストポリスや警官の方へ向かった。

「6000バーツは彼女にくれてやる。俺はホテルへ帰る。」

そう伝えるた後、彼女の顔を睨みつける。彼女は寂しそうな顔をしている。今更罪悪感に苛まれているのだろうか?

前を向いてカズヤとシラヤーストリート入口、ファーストロード方面へ歩いて行く。

「俺は明日仕事だ。家に帰るぞ。」

「わかった。約束の6000バーツだ。」

「確かに。また、何かあればいつでも連絡しろよ。」

「そうだな、助かったよ」

「じゃあな」

そういうとカズヤはファーストロードにあるバービア前に停めてあったバイクへまたがる。店の女の子とは顔見知りで、ちょっとの間だけ置かしてもらっていたようだ。

ヘルメットを被り、セカンドロード方面へ向かって行った。

「12000バーツ、日本円で4万円弱か。本当に馬鹿な事をした。」

初めは腹が立ったが、ここまでしてダメなら諦めが付く。悔しい思いはあるが、これも勉強だと自分に言い聞かせる。

セカンドロードへ歩いて向かい、停車しているソンテウへ乗り込む。このソンテウはセカンドロードの端から端までを走る。巡回ルート上で降りればわずか10バーツだ。

「ソンテウなら1200回乗れる額をドブに捨てた。」

ソンテウは荷台が一杯になれば発進する。次々と一夜限りのカップルが乗り込んでくる。今日は誰も抱きたいとは思えない。このまま1人で帰ろう。

回りを見ないように、会話を聞かないように下を向きながらスマートフォンをいじる。以前ホテルに連れ帰った女性何人かにメッセージを送ってみる。

そうこうするうちにソンテウは満員になり、セカンドロードを北上し始めた。

今日は色々と反省点がある。

なぜ、トラブルを抱えた、相場以上の金を要求する女を持ち帰ったのか?

なぜ、セックスをする前に金を渡したのか?

そもそもあんなに感情の起伏が激しい女は危険だとなぜ避けなかったのか?

怒りが込み上げて来たので、反省するのは辞めよう。むしろ事件になるような大きなトラブルに巻き込まれなかっただけましだ。それにただが12000バーツ、日本円で4万円ぐらい半日で稼げているじゃないか。

考え事をしているとソンテウはホテル前の小道を通り過ぎていた。欧米人と若いタイ人女性のカップルを追いかけるようにソンテウを降りる。

助手席側の窓から手を伸ばしてくる運転手の手のひらに10バーツを渡す。

「コップンカップ(ありがとう)」

普段礼なんて言うことがないソンテウの運転手にお礼を言われた。日本だったら当たり前だがここはタイである。ビックリしたが、少し嬉しい気持ちになった。

「ここはタイだ。今日の事は忘れて明日からおもいっきり楽しもう。」

一方通行になっているセカンドロードを逆方向に歩きながらホテルへと向かって歩いて行った。

 

つづく・・・